院長ブログ:犬と猫の「ふるえ」を徹底解説

シグナルメント別疫学調査からみる原因と対策

執筆:かまた本町動物病院 院長 芹沢和也

1. はじめに:その「プルプル」を放置していませんか?

東京都大田区、かまた本町動物病院院長の芹沢和也です。

「うちの子、寝ている時に足がピクピクしている」「散歩中に急に立ち止まって震えだした」 こうした「ふるえ(振戦)」に関するご相談は、当院の神経科外来でも非常に多い主訴の一つです。生理的な緊張や寒さであれば問題ありませんが、実は背景に重篤な神経疾患や代謝性疾患が隠れているケースが少なくありません。

本記事では、最新の小動物臨床のエビデンスに基づき、犬種・年齢・性別(シグナルメント)から紐解く「ふるえ」の正体について詳しく解説します。


2. 「ふるえ」を科学的に分類する

診断を正確に行うためには、まずその「ふるえ」がどのような性質のものかを知る必要があります。

振戦(Tremor)の3つのタイプ

  1. 安静時振戦(Resting Tremor) リラックスしている時に起こるふるえ。高齢犬の認知機能不全症候群(CDS)などで見られます。
  2. 姿勢時振戦(Postural Tremor) 特定の姿勢(立っている状態など)を維持しようとする時に起こるふるえ。大型犬に多い「起立性振戦」が代表例です。
  3. 意図振戦(Intention Tremor) 何かを食べようとする、歩こうとするなど、目標に向けた動作の時に激しくなるふるえ。これは「小脳」の病変を示唆する重要なサインです。

3. シグナルメント(犬種・年齢・性別)別に見る主な疾患

【若齢~中年齢】頭部だけに起こる謎のふるえ

**特発性頭部振戦(IHT)**は、特定の犬種に顕著に見られる疾患です。

  • 好発犬種: イングリッシュ・ブルドッグ、ボクサー、ラブラドール、ドーベルマン。
  • 疫学データ: 291頭の調査(2015年)では、88%が4歳までに発症。
  • 特徴: 頭を縦に振る、あるいは横に振る動きが数分続きます。意識はハッキリしており、名前を呼ぶと止まるのが特徴です。基本的には良性ですが、飼い主様の不安が強いため、正しい診断が必要です。

【白い小型犬】全身が激しく震える

特発性全身性振戦症候群(IGTS)、通称「ホワイト・シェイカー」です。

  • 好発犬種: マルチーズ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなど。
  • 疫学データ: 1~3歳の若齢犬、特にメスに多い傾向があります。
  • 治療: 自己免疫性の脳炎が関与しているため、ステロイド治療が劇的に効果を発揮します。

【超大型犬】後肢の細かなジリジリ感

**起立性振戦(Orthostatic Tremor)**は、超大型犬に特異的です。

  • 好発犬種: グレート・デーン、アイリッシュ・ウルフハウンドなど。
  • 特徴: 立っている時にだけ13~18Hzという高速の振動が肢に見られます。触ると「携帯電話のバイブレーション」のような感触があります。

4. 猫のふるえ:緊急性が高いケース

猫のふるえは、犬以上に「中毒」や「代謝異常」を疑う必要があります。

  • ペルメトリン中毒: 犬用のノミ・ダニ薬を誤って猫に使用した場合、激しい全身性の振戦が起こります。これは致死的な状態であり、即座の救急処置が必要です。
  • 低カルシウム血症: 出産後の授乳期に起こりやすく、筋肉の硬直を伴うふるえが見られます。

5. 飼い主様に実践してほしい「3つのチェック」

診察室で正確な診断を下すために、ご自宅で以下の点を確認してください。

  1. 動画の撮影(スマホでOK): 病院では震えが止まることが多いため、自宅での様子が一番の証拠になります。
  2. 意識の有無: 震えている最中に、大好きなおやつを鼻先に持っていってください。食べるなら意識は清明、無視するなら「てんかん発作」の可能性があります。
  3. 触診: 震えている部位に触れ、筋肉が硬直しているか、あるいは単に震えているだけかを確認してください。

6. かまた本町動物病院でのアプローチ

当院では、単に対症療法を行うのではなく、エビデンスに基づいた診断プロセスを大切にしています。

  • 詳細な神経学的検査: 脳、小脳、末梢神経のどこに異常があるかを見極めます。
  • 血液検査・画像診断: 代謝性疾患(低血糖、低カルシウム、肝不全など)を除外します。
  • 最新の知見: 2024年以降の最新論文もチェックし、難治性のふるえに対しても、免疫抑制剤や新しい抗てんかん薬の選択肢を提案します。

7. 院長からのメッセージ

「ふるえ」は体が発している小さなSOSです。 加齢によるものと諦めていたふるえが、実は適切な投薬で劇的に改善し、愛犬のQOL(生活の質)が向上するケースを私たちは何度も見てきました。

蒲田・大田区近隣にお住まいの皆様、少しでも気になる様子があれば、かまた本町動物病院までご相談ください。最新の獣医学と、地域に寄り添う温かいケアで、大切な家族をサポートいたします。